メニュー
◆Dr. Roy C. Sidle (キルギス、中央アジア大学、客員講師)
◆講演タイトル: “Preferential flow in porous media.”
◆日時:2023年5月23日(火)
◆会場:東京農工大学 府中キャンパス 農学部 本館2階 22講義室、Zoom
◆言語:英語
◆開催担当者:斎藤 広隆 教授(グローバルイノベーション研究院 食料分野 福田チーム)
◆開催案内
◆参加人数: 14名
講演概要
Dr. Roy Sidle先生をお迎えして,GIRセミナーを開催した.Sidle先生は山地水文,地球科学,環境科学分野で活躍している研究者で,現在中央アジア大学の山岳社会研究所所長を務めている.講演は「Preferential flow in porous media(多孔質体中の選択流れ)」というタイトルで,様々な要因で発生する選択流れが,農業,環境,防災の観点から,どのような影響を与えるか,また水文解析に選択流を考慮することの重要性について,Sidle先生のこれまでの研究や現在の取り組みを中心に講演していただいた.
講演ではまず選択流発生機構として,粗間隙,土壌動物由来の“パイプ”,あるいは亀裂によるもの,あるいは不安定流れを要因とするフィンガー流について,特徴などについて具体例を中心とした解説があった.そして,それぞれの選択流について鉛直流れあるいは水平流れ(斜面流れ)のいずれかが重要であるか,たとえば亀裂であれば鉛直流れが卓越するのに対して,パイプ流れ(土壌動物の住処などによるパイプ内の流れ)の場合は斜面に沿う,いわゆる水平方向の流れの重要性について解説があった.また,水理学特性が大きく異なる層境界で発生するファンネル流れについては,傾斜がある場合において特に物質移動に与える影響は大きいとのことであった.加えて,選択流の現場のおける測定に関連して,自身が行ったのマレーシアでのパイプ流れに関する研究の紹介があった.測定を行った流域では,地下流れの半分近くがパイプ流れによるものであったとして,パイプ流れの理解の重要性が確認されたとのことであった.また,土中のパイプはその崩壊に伴って土壌侵食や地形的な変化まで影響を及ぼすことについて概念モデルの紹介,土や岩盤の持つ水の流しやすさの指標である透水係数の評価について,亀裂やパイプが与える影響についての解説,選択流れの接続性に関する新しい概念モデルの紹介もあった.
最後に,バイオマット流れとよばれる,非常に速い地下の水分流れについての紹介があった.これは表層にできる分解の進んでいない有機物が豊富なリター層内内の水分流れで,リター層が非常に緩い層であるため,実質的には浸透しきれなかった表層流れに相当するものであるが,表層流れのように観察できるものではなく,これまで十分検討されてこなかった.バイオマット流れは選択流の一つとして重要な役割を果たすことがわかってきたとのことで,林地における水循環においてバイオマット流れが重要となる場合があるとの指摘があった.時間の関係で,これら選択流のモデル化について十分な時間を取ることができなかったが,選択流のモデル化について概念図などの紹介など簡単な解説をして終了した.
このページの上部へ