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◆Dr. Karl Ritz (英国、ノッティンガム大学、名誉教授)
◆講演タイトル: ① Soil structure: biota interactions, ② Functional consequences of soil biodiversity
◆日時:2022年10月19日(水)
◆会場:小金井キャンパス BASE本館1階 会議室
Zoom
◆言語:英語
◆開催担当者:豊田 剛己 教授 (グローバルイノベーション研究院 食料分野 豊田ユニット)
◆開催案内
◆参加人数: 25名
講演概要
Karl Ritz先生をお迎えして、GIR公開セミナーを開催した。Ritz先生は、土壌生態学を専門とされており、近年は、土壌学分野でもっともIFの高いQ1ジャーナルSoil Biology & Biochemistry誌の編集委員長を務めるなど、土壌生物学に関する世界のトップリーダーである。今回のセミナーは、「土壌構造と生物との相互作用」「生物多様性の機能の意義」と題する2つのタイトルの下、3時間にわたり講義をしていただいた。
前半では、生物学的にみた土壌構造の生成メカニズム、土壌構造の生成における植物の重要な役割、土壌構造劣化における生物の役割などについて概説された。土壌は①生物の生息場所、②根が伸長する物理的な媒体、③水の保持、④圧密、⑤浸食などのさまざまな機能を有するが、土壌構造がこれら土壌機能の土台となる。土壌構造の指標の1つである孔隙率は植物を栽培することで5%程度から10%程度まで倍増したことから、植物の存在の重要性が指摘され、植物としては主となる作物に加えて、カバークロップや雑草も重要であると紹介された。特に草地は根系の占める領域が大きいため、孔隙率をもっとも向上させた。耕耘はわが国ではほとんどの農地で行われるが、世界的には不耕起や最小耕起への関心が高まっている。これは、耕耘が土壌の団粒構造を破壊し、有機物含量を低下させるからである。これを回避するためにも、植物根による土壌構造の発達が欠かせない。前半の最後では、太陽光は植物成長に必須なため、「SOLAR-POWERED SOIL MANAGEMENT」(太陽光を利用した土壌管理)という新しい用語が紹介された。
後半の多様性に関する講義では、多様性がなぜ生まれるのか、それは本質的な遺伝的なメカニズムであることに加え、適応放散とニッチの多様性があると紹介され、土壌中では昆虫や原生動物、線虫の多様性にくらべ、バクテリアとカビの多様性が圧倒的に大きいとの説明を受けた。多様性の意義は、生物的な道具箱であり、多様なほど多くの道具を有していることになり、将来への適応のポテンシャルを高め、変わりゆく環境に対するレジリエンスを高めることであるという。つまり、多様性が高まれば、生態系の安定性、レジスタンスとレジリエンスが高まる。これらの仮説について、異なる時間、土壌を燻蒸処理をして多様性の異なる土壌生物群集を人工的に作成するなどして検証した例が紹介された。多様な群集ほど、病原菌抑制力が高まる機能も紹介され、多様性を高める土壌管理の重要性、それには植物を最大限に利用する必要があるとの結語であった。
講演会の最後には、聴衆からの質問が多数あり、教員のみならず多くの学生に刺激を与える非常に有意義なセミナーであった。
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