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◆講演者、講演タイトル
Dr. Yoshifumi Itoh(英国、オックスフォード大学、准教授)
“MT1-MMP: a major player in tissue homeostasis, tissue destruction, and cellular invasion “
◆日時:2022年12月15日(木)
◆会場:東京農工大学 小金井キャンパス 11号館 5階 L1153教室
◆言語:英語
◆開催担当者:稲田 全規 教授 (グローバルイノベーション研究院 ライフサイエンス分野 稲田ユニット)
◆開催案内
◆参加人数: 32名
講演概要
Professor Yoshifumi Itohをお迎えして, グローバルイノベーション研究院公開セミナーを実施した。Professor Itohは, 癌の骨転移などの細胞外マトリックス (ECM) の分解を担うマトリックスメタロプロテアーゼ (MMP) の専門家であり, 特に細胞膜表面に発現する膜型のMMPであるMT1-MMPに着目した研究を行っている。本公演では, MT1-MMPと細胞内物質輸送タンパク質であるキネシンについて最新の研究成果を報告された。
Professor Itohは, はじめにMMPの構造, 生理活性およびコラーゲン分解の分子メカニズムについて概説された。MT1-MMPは細胞内ドメイン, 膜貫通領域, 細胞外ドメインから成り, 細胞外ドメインはさらにヘモぺキシン様ドメインと触媒ドメインで構成されることを解説され, MT1-MMPは細胞外マトリックス (ECM) の分解だけでなく, MMP-2やMMP-13などの他のMMPの活性化や, 膜タンパク質のshedding, HIFシグナル経路等の活性化にも関与することを示された。
セミナーの中盤、Professor ItohはMT1-MMPと疾患の関連について紹介された。デュピュイトラン病は線維化により手掌腱膜が肥厚化して指の運動が制限される疾患であるが, これはMT1-MMPのアミノ酸配列において, 273残基目のアスパラギン酸 (D) がアスパラギン (N) に置換 (D273N) されることがリスクファクターであり, これによりMT1-MMPのコラーゲン分解能が低下することで病態が進行することを説明された。一方で, 細胞内ドメインを抗体のFcドメインに置き換え, さらにFcドメイン同士のジスルフィド結合により二量体化させた可溶型の変異MT1-MMP (D273) はコラゲナーゼ活性を有していることから, 細胞膜上の変異MT1-MMP (D273) でコラゲナーゼ活性が失われるメカニズムについてはさらなる研究が必要であることを説明された。
Professor Itohはセミナーを通して、 MT1-MMPと細胞の浸潤・移動との関連について解説された。非運動性のHela細胞においてMT1-MMPを過剰発現するとコラーゲン中での細胞の移動が亢進することを紹介され, このことから細胞の移動・浸潤にはMT1-MMPが最も重要であることを示された。
最後に, Professor Itohは癌細胞浸潤における細胞におけるMT1-MMPの局在メカニズムについて紹介された。MT1-MMPは細胞の浸潤先端に局在してECMを分解するが, その局在化メカニズムはこれまで不明であった。Itoh先生らのグループは蛍光ライブイメージング法を用いて, MT1-MMPがキネシンファミリーのKIF13AおよびKIF3Aによって微小管に沿って浸潤先端へ輸送されることを見出し, その際のライブイメージング映像を紹介された。一方, 同じくキネシンファミリーであるKIF9はKIF13AおよびKIF3Aと競合することにより, MT1-MMPの浸潤先端への輸送を阻害していることを解説された。
質疑応答において、MT1-MMPの阻害剤開発や癌細胞特異性についての質問がなされ、活発な討議が行われた。公演終了後には参加した学生とのディスカッションが行われる盛況な講演会であった。
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