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◆Dr. Chun Sheng Goh ( マレーシア、サンウェイ大学、副所長)
◆講演タイトル: “Transforming Borneo for Sustainable Development: How can we maintain economic growth without causing further environmental impact?”
◆日時:2022年9月30日(金) 16:00~17:00
◆会場:Zoom
◆言語:英語
◆開催担当者:加用 千裕 准教授 (グローバルイノベーション研究院 食糧分野 小池チーム)
◆開催案内
◆参加人数: 20名
講演概要
Chun Sheng Goh先生をお迎えして、GIR公開セミナーを開催した。Goh先生は化学工学におけるオイルパームや木質バイオマスの化学変換を主な専門とし、近年は東南アジア地域における土地利用やバイオエコノミーに関する広範な研究を進められている。また、International Energy Agency (IEA) Bioenergy Task 40やCentre of International Forestry Research (CIFOR)の中心メンバーでもあり、バイオマス研究分野において国際的に活躍されている。今回のセミナーでは、Goh先生の研究フィールドの1つである東南アジアのボルネオ島における持続可能な発展について講演頂いた。
ボルネオ島はマレーシア、インドネシア、ブルネイの3カ国の領土であり、世界の島の中で第3位の大きさを誇り、日本の国土の約2倍の広さを有する。熱帯雨林に覆われ、世界で最も生物多様性が豊富な地域の1つであり、マングローブを中心とした貴重な生態系が広がっている。1960年代頃まで島全体がほぼ熱帯雨林に覆われていたが、その後の経済発展に伴う開発によって都市化・農地化が進み、原生林の減少とともにオイルパーム林が増加している。ボルネオ島のパーム林から生産されるパーム油は日本を含めた世界中で食品・日用品に広く用いられている。食品・石鹸・化粧品等に加え、近年はバイオプラスチックの原料にも使用されている。ボルネオ島における原生林の伐採とパーム林への転換は多くの地域で地元住民とパーム企業との対立を引き起こしている。一方で、政府や専門家等は開発vs保全ではなく、開発&保全の重要性を認識してきており、近年は森林減少・劣化速度が緩和されている傾向も見られる。今後はどのように経済発展を実現しながらさらなる環境影響を回避するかが不可欠な観点となる。さらに、これまでに失われた自然環境を回復させることも重要となる。
ボルネオ島の経済発展と環境保全の両立に向けて必要となる10の方策を解説頂いた。(1)生産性の向上:農業技術の向上による生産性の改善と農地面積拡大の抑止やデジタル技術を積極的に活用する。(2)レジリエンスの向上:生産システムの収容力を高めるために柔軟で効率的な環境変化への適用が不可欠であり、それに対応したランドスケープ計画も重要となる。(3)劣化地の回復:森林の農地転換やさらなる劣化を回避するとともに、エネルギー用作物生産地の劣化抑制に向けた研究を進める。(4)自然環境に基づく財政:森林に関わる炭素クレジットや取引制度を積極的に活用する。(5)バイオマス利用の多様化:従来のバイオマス利用技術・用途だけでなく、医療、農業、バイオリファイナリー、バイオ工学、バイオポリマー等の新規のバイオマス技術や産業の多様化を図る。(6)観光業の復興:観光産業は地域の経済発展と環境保全の両立が可能な産業であり、ポストコロナ時代に対応するデジタル技術を活用した新しい観光ビジネスモデルの構築も重要となる。(7)持続可能性の認証:Roundtable on Sustainable Palm Oil (RSPO)といった持続可能なパーム油生産の認証を拡大し、持続可能なパーム林の管理を支援する手段として積極的に活用すべきである。(8)小規模農家の市場戦略:ボルネオ島には小規模農家が多いため、彼らへの経済的支援、ボルネオ産製品のブランド化等も重要となる。(9)廃棄物の価格安定化:現状は廃棄されている低質なバイオマス資源が豊富に存在するため、それらのエネルギー利用等による価値化は地域経済の活性化や小規模農家の収入増加等が期待できる。(10)自給率の向上:ボルネオ島の食料やエネルギーの自給率向上は気候変動対策に加えて安全保障上も重要である。
ボルネオ島の経済成長と環境保全の両立に向けた方策について自然・社会科学の両観点から包括的な解説をして頂き、講演中や終了後にも聴衆との活発な質疑応答が行われ、教員・学生ともに大変有意義なセミナーとなった。
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