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2021.11.4
Dr. Richard J. Simpson(オーストラリア、ラトローベ大学、Department of Biochemistry and Genetics、教授)
◆日時:2021年11月2日 (火)
◆会場:Zoom
◆言語:英語
◆開催担当者:天竺桂 弘子 教授 (グローバルイノベーション研究院 ライフサイエンス分野 池袋チーム)
◆参加人数: 30名 後日google classroomで配信
◆開催案内
講演概要
Richard J. Simpson先生をお迎えして池袋チームGIRセミナーを開催した。Simpson先生は、毎年” Highly Cited Researcher”に選出される分野を牽引するエキソソーム生物学の第一人者である。
本講演では最初に、上皮間葉転換(epithelial-mesenchymal transition: EMT)が、進化的に保存されたプロセスであり、上皮性の特徴が失われ、間葉性の表現型を獲得することで定義されることを紹介し、 EMTが、発生における中心的な役割に加えて、腫瘍形成時の細胞プロセスとしても関与しており、腫瘍細胞の浸潤や転移を促進することを紹介していただいた。 EMTの分子機構は、3つの大きなカテゴリーに分類される。(i)誘導因子(またはトリガー):EMTプログラムを開始する上流の成長因子や受容体のグループ、(ii)EMTプログラムを組織化するマスター転写因子(EMT-TF)、(iii)エフェクター:形態変化、極性、浸潤特性の付与など、細胞の特徴を変化させる役割を持つタンパク質のグループである。 この10年間で、成長因子や受容体に加えて、細胞外小胞(EV)、特にエクソソームがEMTプロセスに寄与していることが認識されるようになってきたことについても触れられた。
次にSimpson先生の研究室での成果として、H-Rasで癌化したMadin-Darby Canine Kidney(MDCK)細胞株モデルを用いて、質量分析法に基づくタンパク質プロファイリング(Orbitrapおよびラベルフリー定量法)を組み合わせ、ECM(細胞外マトリックス)の再構築や細胞間の接触に関与する可溶性タンパク質(セクレトーム)など、EMTプログラムの多くの細胞外エフェクターを同定した事例についてお話しいただいた。 さらに、H-RasによるMDCK細胞のEMTでは、エクソソームのタンパク質レパートリーが大きく変化し、転移性ニッチの形成を促進することが知られていること、カーゴタンパク質や、EMTを誘発することが知られている転写因子やスプライシング因子が選択的に輸送されることについて紹介いただいた。
Simpson先生の研究室で現在取り組んでいることとして、EMTプログラムにおけるEVの役割に関する研究を拡大し、2つ目の主要なクラスのEVであるマイクロパーティクル(MP)(シェッドマイクロベシクルやエクトソームとも呼ばれる)の解析についても紹介いただいた。 EVはエクソソームとは対照的に、組織トランスグルタミナーゼ2(TGM2)、RNA結合タンパク質、ミトコンドリアタンパク質は、H-Rasで誘導されたEMTに伴って選択的にMPに輸送される。 本セミナーでは、エクソソームとMPの機能的な違いについても、EMTやがん生物学の観点からお話しいただいた。
本講演には多数の大学院生および学部3、4年生に加えて、獣医学科の5、6年生が参加した。また、農学府、工学府の博士課程および修士課程の学生から、活発な議論が交わされました。農工大外部からも6名の研究者の参加があり、講演後にも活発な議論が交わされました。時間が超過してしまったため、さらに寄せられた大学院生の質問にSimpson先生がメールでお答えすることを約束するなど、丁寧な研究指導が大学院生から好評でした。
本セミナーは、、本学の大学院生と学部生が、最先端の研究に触れた非常に良い機会となりました。
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