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2019.12.19
講演者 Prof. Yoshifumi Itoh (Kennedy Institute of Rheumatology, University of Oxford)
◆日時:2019年12月12日(木)
◆会場:東京農工大学 小金井キャンパス 6号館 3階 L0631
◆言語:英語
◆開催担当者:稲田 全規 准教授 (グローバルイノベーション研究院 ライフサイエンス分野 吉田チーム)
◆参加人数: 40名
◆開催案内
講演概要
英国・オックスフォード大学のProfessor Yoshifumi Itohをお迎えして、グローバルイノベーション研究院 公開セミナーを実施した。
Prof. Itohは、細胞外マトリックス (Extracellular matrix; ECM) の分解を担うマトリックスメタロプロテアーゼ (Matrix metalloproteinase; MMP) の専門家であり、膜型MMPであるMT (Membrane type) 1-MMPに着目した研究を行っている。本公演では、MT1-MMPと細胞内物質輸送タンパク質であるキネシンについて最新の研究成果が報告された。MT1-MMPの機能として、MT1-MMPは細胞の機能の制御に直接関わっており、細胞接着、タンパク質分解、細胞移動を協調的に制御している。また、MT1-MMPはECMの分解だけでなく、MMP-2やMMP-13などの他のMMPの活性化や、膜タンパク質のシェディング、低酸素誘導因子(Hypoxia-inducible factor; HIF)や細胞外シグナル調節キナーゼ(Extracellular signal-regulated kinase; ERK)シグナル経路の活性化に関与する。ヒト子宮頸癌由来細胞株であるHeLa細胞はMT1-MMPを発現しておらず、三次元コラーゲン培養では移動することができない。しかし、MT1-MMPを強制発現させたHeLa細胞はコラーゲンを分解することで、コラーゲン中での移動が可能となる。このことから、ECM中における癌細胞の移動・浸潤にはMT1-MMPが重要であることが示された。MT1-MMPは浸潤突起(Invadopodia)や膜上仮足(Lamellipodia)といった細胞の浸潤先端に局在してECMを分解するが、その局在化メカニズムは不明であった。Prof. Itohらのグループは蛍光分子イメージング法を用いて、MT1-MMPが細胞内小胞にソーティングされ、キネシンスーパーファミリータンパク質(KIF)13A、KIF3A、KIF1Cといったモータータンパク質により、微小管に沿って浸潤先端へ輸送されることを発見した。また、これらKIFをノックダウンするとMT1-MMPの浸潤先端への局在化が抑えられるとともに、MMP-2の活性化が抑制され、三次元コラーゲン培養中の細胞遊走が減少することを明らかにした。一方、KIF9はMT1-MMPの小胞輸送を阻害していることを示唆した。続いて、MT1-MMPと線維症の関係について紹介された。線維症はコラーゲンが増加することで間質が肥大化する疾患であるが、MT1-MMPの変異保因者のうち、約30%の人に線維症発症リスクがあることを説明した。これは変異によってMT1-MMPの構造が大きく変化することでコラーゲン分解能が低下するためであることを示した。
公演終了後には活発なディスカッションが行われ、教員のみならず、参加した学生にも有意義な講演会であった。
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