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2019.9.24
講演者 Prof. Chris Bowler (Ecology and Evolutionary Biology Section, Institut de Biologie de l’Ecole Normale Supérieure (IBENS), Paris, FRANC)
◆日時:2019年9月17日(火)
◆会場:東京農工大学 小金井キャンパス 11号館 L1153教室
◆言語:英語
◆開催担当者:田中 剛 教授 (グローバルイノベーション研究院 エネルギー分野 田中チーム)
◆参加人数: 31名
◆開催案内
講演概要
令和元年9月17日 にChris Bowler先生によるGIR公開セミナーを開催した。Chris Bowler先生は、珪藻をはじめとする海洋環境のプランクトンのゲノム解析を専門とされている。また、世界中の海洋環境における生物多様性や気候変動についての解析を行うTara Oceansプロジェクトを牽引している。今回のセミナーでは、今年が、珪藻のモデル生物であるPhaeodactylum tricornutumのゲノム解析がNatureに報告されて10年の節目の年であることを記念し、これまでにP. tricornutumのゲノム解析から得られた知見や、ゲノム編集の適用、バイオ燃料生産などの工学的応用といった、同珪藻を用いた幅広い研究について解説頂いた。
P. tricornutumは、羽状目珪藻と呼ばれるグループに属し、珪藻のもう一方のグループである中心目珪藻のThalassiosira pseudonanaに次いで2番目にゲノム解析された珪藻である。珪藻は複雑な進化の過程を経ており、共生イベントを2回経験した二次共生生物である。そのため、細胞内の膜構造が複雑に発達している。また、ゲノム構造も複雑であり、祖先となる緑藻、紅藻に由来する遺伝子を併せ持っている。さらに、P. tricornutumのゲノム解析の結果、多くの遺伝子を細菌から水平伝搬で取り込んでいることが見出された。このようなモザイク状の構造は珪藻ゲノムの大きな特徴の一つであり、海洋関係における珪藻の繁栄に寄与している可能性がある。また、これまで動物でしか確認されていなかった尿素回路が存在することが示唆された。この経路は、珪藻が一時的に窒素を利用可能な状態になった時の代謝的応答に寄与しており、細胞壁の成分であるポリアミンなど、生育に不可欠な窒素化合物を生成する際に重要な役割を果たしている可能性があると考えられる。
さらに、Tara Oceansプロジェクトで得られた海洋のメタトランスクリプトームデータから、珪藻の分布や遺伝子発現挙動の推移についての解説があった。同様にTara Oceansプロジェクトから得られたデータから、異なる地域に生息するP. tricornutumの株(エコタイプ)の特徴が見出されており、同珪藻の進化の過程の詳細が明らかとなりつつあることが示された。
講演の後半では質疑応答の時間が設定された。教員のみならず学生からも質問があり、活発な議論や意見交換がなされ、非常に有意義なセミナーとなった。
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